人手不足の状況

日本全国に6000人

2002年(平成14年)末の厚労省の調査によると、麻酔科を専門とする医師の人数は全国で6087人で、毎年微増傾向にはある。

人口あたりの人数が、独、英の4分の1

しかし、人口10万人当たりの数では、ドイツとイギリスが15人以上、米国でも約8人だったのに対し、日本は4人程度にとどまっている。

しかも、医療の高度化によってこれまで実施されてこなかった手術も行われるようになるなど、国内の手術件数は急増。2002年9月の1カ月間に行われた全身麻酔による手術件数は15万4394件で、6年前に比べて2万件以上も増えていた。

麻酔科医一人当たりの負担は確実に増している。

日本麻酔科学会が「3000人不足」

2005年11月17日から大阪市で開かれる「日本臨床麻酔学会」でもメインテーマの一つになっている。

全国の麻酔科医が加入するもう一つの学会「日本麻酔科学会」は2005年2月、「麻酔科医マンパワー不足に対する提言」を発表した。この中で、病院の常勤麻酔科医だけで手術をまかなうとしたら、全国の麻酔科医を6000人とすると、3000人不足していると結論づけている。

ハードな勤務

手術で呼吸、血圧、心拍数、痛みを管理

麻酔科医の仕事は手術中に患者に麻酔をかけて呼吸や血圧、心拍数、痛みを管理する。患者一人ひとりの容体に合わせて対応するため、術前から術後の意識回復までを診る。

外科、眼科や皮膚科、産婦人科、救急救命

外科のみならず、眼科や皮膚科、産婦人科、救急救命などの手術も担当しなければならず、仕事量は想像以上に多い。

縁の下の力

近畿大医学部麻酔科の古賀義久教授は「麻酔科医は患者の命を管理するという重要な使命があり、やりがいは大きい。だが、外科などと違い、縁の下の力持ち的存在。患者との接点も少なく、目立たない。そのうえ激務で、なり手がなかなかいない」と現状を説明する。

女性の比率が高い

出産・育児を機に辞める人が多い

また、麻酔科医は女性の比率が高く、出産・育児を機に辞めていく人が多いことも原因の一つ。「麻酔科を1年も離れると、技術や勘が衰え、第一線では活躍できなくなる」と古賀教授。

フリーの麻酔科医

2005年11月17日から大阪で開かれる日本臨床麻酔学会でも、麻酔科医不足をテーマにしたシンポジウムが開かれる。このなかで仙台医療センターを辞め、現在フリーの麻酔科医として仙台医療センターや東北大学病院と契約し、計週5日勤務する皆瀬(かいせ)敦医師は「フリーの麻酔科医の立場から」と題して講演する。

当直や緊急呼び出しがない

フリーになると、基本的に当直勤務や緊急呼び出しなどはない。待遇は勤務医時代から改善されたという。病院側には勤務医の休日確保などのメリットがある。

皆瀬さんは「決して理想形ではないが、麻酔科医の労働の自主性・自立性を守るための一つのモデルケースで、最近増えている。患者さんとの接点を保つためには病院の麻酔科医が担当するのが一番だが、現状は労働条件が厳しすぎる」と説明する。

アメリカでは給与上げたら増えた

術前・術後の対応や患者とのコミュニケーションを考えると、やはり病院の麻酔科医が担当するのが望ましい。古賀教授は「アメリカでは金銭面で麻酔科医の待遇を改善したら、麻酔科医が増えたという報告もあるが、日本では難しいのでは」とする。

厚労省の「医師の需給に関する検討会」では医師の確保策が議論されているが、麻酔科医だけでなく、小児科医や産科医、救急医などもその対象になっている。

「一般になじみのある小児科や産科、救急は、マスコミなどを通じて世論に訴えかける機会も多いが、すべての医療に通じる麻酔科は地味。いつも歯がゆい思いをしている」と古賀教授は胸の内を打ち明ける。

麻酔科医になる条件

医師免許を取得したのち、麻酔指導医のもとで2年間以上麻酔科に専従するか、全身麻酔を2年以上にわたって300例以上実施した経験があり、厚生労働省に申請すれば、麻酔科医を「標榜」(ひょうぼう)することができる。



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